2012年9月17日月曜日

「理性的愛国表現」の対応に苦慮する中国政府:小粒になった中国政治家

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●タイ・バンコク(Bangkok)にある日本大使館前で、日本政府による尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)の国有化に抗議する中国人活動家ら(2012年9月11日)。(c)AFP/PORNCHAI KITTIWONGSAKUL



JB Press  2012.09.14(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36110

「理性的愛国表現」が聞いて呆れる対応に苦慮する中国政府
~中国株式会社の研究
by 宮家 邦彦

 今週は中国人留学生の話を取り上げるつもりで準備していた。
 柳条湖事件が起きたのは81年前の9月18日。
 まさかこの日の前に尖閣を「国有化」することはないだろう。
 こう考えた筆者はやはり甘かった。
 「国有化」決定は9月10日。
 案の定、日中関係は再び揺れ始めた。

 9月12日、日本の某公共放送局は、
 「政府は・・・冷静な対応を求めていく方針ですが、中国側は、対抗措置を取る構えを見せるなど、悪化した日中関係を打開する見通しは立っておらず、引き続き対応に苦慮しそうです」
と報じている。

 申し訳ないが、筆者の見立てはちょっと違う。
 「対応に苦慮」しているのは、中国側も同じだからだ。

 というわけで、今回は再び尖閣最新情勢をめぐる筆者の独断と偏見を御披露することとし、日本や英国で中国人留学生が直面している問題については来週以降取り上げたい。

「国有化」とは呼ばない

 まず不思議なことに、日本政府は今回の措置を「国有化」と呼ばない。

 9月10日の「関係閣僚申し合わせ」では「尖閣諸島の取得・保有」と書かれている。
 理由は不明だが、「国有化」を中国語で読むと、いかにも「日本国が現状を変更した」かのような響きがあるからだろうか。

 この「申し合わせ」の当事者は内閣官房長官、総務大臣(代理)、外務大臣、財務大臣、国土交通大臣の5閣僚だが、最終的に「尖閣3島の取得・保有」の主管官庁は海上保安庁とされた。
 可哀そうに、結局「海保」がババを引かされたということか。

 5億円程度の島に20億円以上も支払う根拠は何か。
 「申し合わせ」では、
 「他に代替性のない国境離島を取得・保有するという今般の事案の特殊性」
に鑑みたと書かれているが、これではあまりに弱い。
 地権者が20億円必要だった、と説明する方がよほど説得力がある。

 このように、日本政府による今回の「国有化」は決して簡単な決断ではなかったようだ。
 しかし、中国政府の発表ぶりも、よく読んでみると混乱していて、結構面白い。
 続いては中国側発表内容などに茶々を入れることにしよう。

中国側の建前と本音

●「日本は様々な口実を使って軍拡をして、釣魚島(尖閣諸島)問題でいざこざを起こしてきた」
 「中国の政府と軍隊の領土・主権を守る決意と意思は固く揺るぎない」
 「我々は事態の推移をよく注視し、相応の措置を取る権利を留保する」(12日、中国国防部報道官)

●「第2次大戦後、中国の主権に対する最も露骨な挑戦」
 「今の中国は甲午戦争(日清戦争)や日本による対中侵略戦争時代の中国ではない」
 「日本政府は火遊びをやめろ」(11日付解放軍報)

 (筆者コメント、以下ゴシック体は同じ)中国側は「領土・主権を守る決意」「中国への露骨な挑戦」などと言うが、尖閣諸島に領土を実効支配していない中国の一体どこに日本が「挑戦」したと言うのだろう。

 また、解放軍は報復措置の可能性を示唆したというが、米軍と戦いたくない彼らにとって、軍事介入はしたくないというのが本音ではないのか。

●9月10日、中国政府は尖閣諸島と付属島嶼12カ所の領海基点を結んだ領海基線を発表し、尖閣諸島に対する監視を常時行うと表明。
 11日には、中国気象局が同日から尖閣諸島と周辺海域の天気予報を始めると発表した。

●「海洋監視担当部門は状況によっては主権を守るための行動を展開する」
 「海洋調査船の派遣は釣魚台に対する主権を定着させようとする日本の試みに大きな打撃を与え、中国政府の領土と国家主権を守る固い決心を示すもの」(11日、新華社報道)

 中国は1992年と96年に領海関連法等を制定しつつ、尖閣諸島や南沙諸島には基線を設定していなかった。
 その意味で「領海基線」設定自体は目新しいが、これで尖閣列島付近に中国の公船が定期的にやって来る実態が大きく変わるわけではない。

 まして、天気予報を始めたことなど象徴的意味しかないだろう。 
 海監46、49など海洋調査船の派遣も従来の行動パターンを大きく踏み出すものではない。
 重武装の「海警」艦船でも派遣してくれば話は別だろうが・・・。

●「(一連の反日デモ参加者に対し)中国政府は「理性を持った愛国表現を」と呼びかけた」
 「日本の誤った行動が国内外の中華子女の強烈な義憤を引き起こした」が、
 「公衆が法に沿って、理性的に愛国の情を表すことを主張する」(12日、中国政府・外交部コメント)

●中国が時間をかけて力を蓄え、日本の対応を変えさせるとしても、それには今後約30年が必要だろう(这个过程如果顺利的话,大约需要30年左右。12日付環球時報社説)

 「理性を持った愛国表現」
とは要するに、
 「反日活動はいいが、反政府運動はするな」
ということだろう。
 語るに落ちたとはこのことだ。

 また、「友好の幻想にとらわれず真剣に日本に対処しよう(莫再幻想友好,认真对付日本)と題された環球時報社説をじっくり読むと、中国共産党が置かれた国内政治状況が行間から見えてくる。
 明らかに中国側の最大関心事は「尖閣」よりも「国内の安定」だろう。

対応に苦慮する中国

 要するに中国側の本音は、
 「日本側の意図が読み切れず、対応に困っている」
ということだ。
 もちろん、日本の「国有化」自体はけしからんと思っているだろう。

 だが、それ以上に困ることは、
 尖閣「国有化」問題が10年に1度の中国共産党指導部交代期と重なることだろう。

 日本に対し「十分強硬」と見えなければ、中国国内で「対日弱腰」と批判される。
 逆に反日を煽り過ぎれば、「反日」デモが「反政府」デモとなり、収拾がつかなくなる。
 中国共産党の幹部にとっては、どちらに転んでも良いことは1つもない。

 最も懸念されるのは、現在も日中政治レベルで「本音を探り合う」チャンネルが存在しないことだ。
 政治的に機微なこの問題はとても局長レベルで処理し切れない。

 今の日中関係は
 「落とし所が見えない」
中で
 「ガチンコ」ゲームをやっている
に等しいほど危ういのである。

 この中で中国側が、9月末に北京で開く日中国交正常化40周年記念行事を機に、元自民党幹事長、民主党政調会長代行など超党派国会議員訪中団に対し、出発を「見合わせてほしい」と通知したそうだ。

 これが事実であれば、日中間政治レベルのチャンネル再構築はさらに遅れるだろう。

 そもそも
 今の中国側指導者の中に日中関係を背負う気概のある政治家は見当たらない。

 さらに、日本では誰が次の政治指導者になるかも確かではない。
 当分、日中関係は茨の道である。


 野田政権は発足すると、すぐに北海道の戦車舞台を九州に輸送し、大分で中国が沖縄に侵攻した際の軍事訓練を実行した。
 明らかに中国を仮想敵と見定めた行動である。
 過去にこんなにあからさまに中国と事を構えようとした首相はいない。
 以降、野田首相はその路線を突き進むことになる。
 そしていともアッサリと中国が非常に嫌がる尖閣の国有化を実行してしまった。
 恐ろしいほどに辣腕である。
 そのため、日本の政治自体が野田首相の路線に乗るしかなくなってしまった。
 そして、さらにきつく中国に当たるしか策がなくなってしまった。
 現在自民党の党首選には5人が立候補しているが、当選候補の上位3人はさらなる強硬論者である。
 そして次の選挙の嵐の目になるであろう「日本維新の会」も強硬路線を鮮明にしている。
 つまり、対中国については日本の政治家は明確にポリシーをもっている。
 日本のような民主主義ではリーダーは小粒でいいし、小粒でないといけない。
 強力なリーダーはまったく必要でないし、いてもらっては迷惑このうえない。
 日本人は人間はそこそこ皆同じで飛び抜けた人はいないと思っている。
 せいぜいのところ一頭抜きん出ているくらいが関の山で、一体身抜きん出ているというのは怪しいと考える思想をもった民族なのである。
 よってちょっと先行く小粒なリーダーがピシッイとしたポリシーで一時引っ張っていくのが日本の政治なのである。

 対する中国はどうか。
 世界ナンバー2 国家になったとたん腰砕けになってしまった。
 まあ、政権交代を目前に控え、明確な路線を描くことができないという状況に置かれていることは確かだが。
 習近平の様態が定かでないし、共産党首脳部の様子がとうも曖昧である。
 毅然としたリーダーがいなくなってしまったということなのだろう。
 何をしたいのか、どうしたいのかがまるで伝わってこない。
 というより表現していない。
 時の流れに委せているようなところがある。
 政治家たちが小粒になってしまったということだ。
 独裁政権ではリーダーが強くないといけない。
 強力なリーダーがグイグイ引っ張っていくことで独裁は機能する。 
 小粒な独裁者など、国を滅ぼす。
 共産党は豊かな貴族階級になってしまった。
 皆が小粒になってしまった。
 持てるものだたくさんあるので、それを熱心に抱え込んでしまっている。
 そちらに手を使って、肝心の政治に抜かっているのである。
 金満肥満が動きを鈍くしている、そんな風に見えるほどである。



 

 「ここに日本政府に丁重に警告する」



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